「呉須三昧」 ―近藤悠三の世界
白い磁器に酸化コバルトを原料とする「呉須」で絵付けを施し、透明な釉薬をかけて高火度で焼きあげた焼物を「染付」という。14世紀初頭中国景徳鎮地方で完成したこの技法は、ヨーロッパ、イスラム諸国、朝鮮半島など各地方に伝播し、
近世の世界の陶磁器生産技術に多大な影響を与えた。日本へは16世紀末に九州の有田地方に伝わり、日本人の生活文化にも広く受けいれられるようになった。ここ京都で本格的に磁器の生産がされるようになったのは18 世紀後半。
しかし、その多くは「古染付」や「祥瑞」とよばれる中国製品の「写し」や、伝統的な技術やスタイルを中国に習ったものが中心であり、新しい独自の試みはほとんどなされなかった。
近藤悠三は、その染付技法を伝統的な枠組から新しい芸術表現へと昇華させ、陶磁器染付の分野で重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けた。
近藤悠三
1902年、京都市清水寺下門前に生まれる。
15歳で京都市立陶磁器試験場付属伝習所轆轤科を修了。
富本憲吉の助手をつとめる。
1965年京都市立美術大学学長に就任。
紫綬褒章、勲三等瑞宝章、紺綬褒章受章。
京都市文化功労者、京都府美術工芸功労者。
1977年染付技法の重要無形文化財保持者の認定を受ける。
1985年2月25日逝去。
近藤悠三・豊・濶・高弘 ―三世代の陶芸
近藤悠三(1902–1985)は、1902年に京都清水寺門前茶わん坂に生まれた。
1924年、本格的な陶芸の制作活動を開始。染付技法を伝統的な枠組みから芸術表現へと昇華させ、1977年、陶磁器染付の分野で重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受ける。世界最大級の梅染付大皿にはじめ、生命感に満ち溢れた雄大な染付は「近藤染付」とも呼ばれ、近藤家の者たちにとってそれはおのおのの創作の原点となった。前衛陶芸の興隆期、自らの芸術性を追及し、父悠三とは異なる抽象的な文様で静謐な精神世界を表現した近藤豊(1932–1983)。
生命感に満ち溢れた雄大な染付は「近藤染付」とも呼ばれた
悠三の確立した近藤染付を継承しながらも、繊細優美な独自の芸域を確立し、その美を「用」の世界へと広げた近藤濶(1936–2012)。現代的な感性と銀滴彩に代表される独創的なテクニックで、常に新しい造形世界へと挑みつづけ国際的に活動する近藤高弘(1958–)。
勤皇の志士―近藤正慎
1816–58
激動の幕末期、清水寺の寺侍として勤皇僧・月照上人に仕えた悠三の祖父・近藤正慎(1816–58)は、月照と西郷隆盛を助けた罪で幕府に捕らえられ、獄中で舌を噛み切り自害した勤皇の志士であった。近藤正慎にはじまる強靭で壮烈な精神性こそ、近藤家の「伝統」でもある。
近藤 豊
1932年、悠三の長男として京都市に生まれる。
京都市立美術大学専攻科修了。富本憲吉、近藤悠三に師事。
京都市立芸術大学教授。新匠会展富本賞、現代朝日陶芸展入賞、デポー陶芸展(アメリカ)受賞、日本陶磁協会賞、日本伝統工芸展奨励賞受賞。
アメリカ、インディアナ州立大学(1962)、ニュージーランド、エリザベス2世芸術院(1979)より招聘され陶芸指導。
ニューギニア未開美術調査(1969)、アフガニスタン伝統工芸調査(1977)、韓国工芸調査(1977)に参加。
1983 年 3 月 17 日逝去。
近藤 濶
1936年、悠三の次男として京都市に生まれる。
日本工芸会正会員。新匠会展・富本賞、京都新聞大賞・文化学術賞受賞。
カナダ、アメリカ、タイ等で海外指導を行う。
主な展覧会に、1993年「近藤染付陶芸三代展」(フィッツウィリアム美術館、英国・ケンブリッジ)、「日本の現代染付陶芸 近藤悠三・濶・高弘展」朝日新聞社主催(大丸ミュージアム巡回、名都美術館)、 2000年「中国青花と近藤染付展」(中国北京故宮院斎宮)、2006年「近藤濶 古稀展」(京都髙島屋)など。
大英博物館、京都府文化博物館、外務省などに作品が収蔵される。
2012年5月31日逝去。
近藤高弘
近藤高弘 作家ページ http://www.kondo-kyoto.com/
1958年、濶の長男として京都市に生れる。
エディンバラ・カレッジ・オブ・アート修士課程修了、文化庁派遣芸術家在外研修員、京都市芸術新人賞、Inglis Allen Masters賞受賞。
主な展覧会に1995年個展(スコットランド国立博物館)、2005年「- Contemporary Clay -新世紀の日本の陶芸」(ボストン美術館)、2007年個展「変容の刻- Metamporphose -」パラミタミュージアム、2010年「未来を担う芸術家 DOMANI・明日展」(国立新美術館)、2014年「京焼歴代展-継承と展開-」(京都市美術館)、2015年「古代から現代:日本現代陶芸とその起源」(サンアントニオ美術館)、2017年個展「手の思想」(何必館・京都現代美術館)、2019年「Bouddha, la légende dorée」(ギメ美術館)など。
主なパブリックコレクションにメトロポリタン美術館、スコットランド国立博物館、ギメ美術館など多数。